短編小説

「気持ちいい?」

「うん」

「イッていい?」

「うん」

彼は恥ずかしそうな声で。僕に言った。

「気持ちよかった…。お風呂入ってくる」

そう言い残し、お風呂場へと姿を消した。

そして僕は、メモ用紙とお金を机に置いて、部屋を出た。ビジネスホテルはラブホと違い、簡単に出られるから楽だ。

メモ用紙には「さようなら」と書いた。

エッチした後すぐに部屋を出て連絡先もブロックする。こんなことを何回も繰り返していると、罪悪感も無くなってくる。

僕がこんなふうになったのは、1年前のあの事件のせいだった。

 僕はいつものように部屋に彼氏を呼んだ。テレビゲームをしている途中、急遽会社に資料を取りに行くことになった。

彼氏を部屋に残したまま、僕は会社へと向かった。

2時間ほどして家に着いた。扉を開けると、見覚えのない靴があった。僕は悪い予感がした。あえて静かに部屋に入ると、そこには全裸になった彼氏と知らない男がいた。

沈黙が続いた。そして彼氏は言った。

「ごめん。お前とは、別れたい。」

僕は泣きたくなった。

「そっか。なら出ていけ。今すぐ。」

僕は泣くのを我慢して、そう言った。

知らない男が出て行く時、腕を掴んだ。

「覚えてろよ。」

と、言いたかった。でも実際は

「お幸せに。」

そう言った。

もう苦しかった。死にたかった。部屋に残る彼氏の匂いが嫌になった。

あんなに幸せだったのに…。

 

続く…